Understanding children's heart with pictures: From
"Why children draw"
Kayoko Sato, Ken Terao / Reference

 

子供の絵と情緒

子供は最初、母の胎内にあって母と一体であるが、誕生によって母と分離し、一つの個体として存在することになります。
しかし授乳を通して母の乳房にしがみつき又、母に抱かれることによって、かよわい子供もどうにか安定を得ることが出来ているのです。

月日がたち、やがて離乳期を迎えることによって、完全に母と訣別することになるのですが、
離乳後のさびしさと不安は、子供にとって大変なものでして、指しゃぶりが続いたり、毛布や
タオルにしがみついたりするのもこの時期で、意味のない絵空描きや塗りたくり画が始まるのも丁度この時期に当たります。
この塗りたくり汚すことによって子供は母の関心を呼びおこし、母を引き寄せようとしている
と云われています。

例えば、子供が3~4才になり、下に赤ちゃんが生れたりすると、それまでは排便も排尿もきちんと出来た子供が、急に退行現象をおこし、おもらしをしたり、急に人が変わったりするように乱暴な振るまいをしたり、わざといたずらをしたり、黙りこくって拒否的的な反応を起こしてしまうという現象が 家庭の中や幼稚園の中で見受けられますが、それはさして珍らしいことではありません。
これは母親の関心を求めようとする無意識的な行動であり、子供の最初の描画もこの意味に於て画面を汚すことにより母からの分離を回復する無意識な努力であるといわれる訳なのです。

子供の心と絵

子供が自由に描いた絵は無意識の投影であり、その無意識の心理がそのまま画面に表われます。満足な安定感を持つ子供の絵は、明るくいきいきとした要素に満ち溢れ、不安定な心を持つ子供の絵は自然に暗く汚れ乱雑になります。

子供の絵には子供の心が隠されています。
即ち、子供の絵の出発は知的興味の現れと、様々な情緒の発散であり、甘えたい感情と反抗の
表われでもあります。やがて子供は絵を描くことから自己表現の喜びを知り、甘えと反抗からの脱却を繰り返して成長して行くのです。
このような依存的態度や攻撃的態度は、絵を描くという行為の中でのみ解消され、昇華されていくものであり、そうした適切なプロセスを経てこそ、はじめて知性、情緒、意志が調和した人格の形成が達成出来るようになります。

慶應義塾大学理工学部講師
芸術による教育の会副理事長
寺尾 憲
『子供の心は絵でわかる』より / 著:佐藤かよこ・寺尾憲